2015年7月31日金曜日

mollen物語

いえい。やっとでけたぜ。8月14日。モーレンがやるライブの物語。
興味ある人も無い人も。読んでくれたら嬉しいな。あなたに届けたい。無情の愛。
以下、本編也

   
   湿った風が吹き、濁った水が流れる。

   決して過ごしやすいとは言い難い気候の夜更けに、突然呼び出された燕は、誰よりも居心地が悪そうだった。
   先程から繰り広げられる二人の会話の内容が、燕の胸にあった嫌な予感を見事に的中していたからである。
   沈黙は長くなった。 

   「もう、僕たちはおしまいなのかな」
   言い終えた後に、燕は俯いた。言ってしまったことを、強く後悔した。
   海月はあたかも面倒そうな面持ちで言った。
   「さっきから言ってるじゃない。あなたとは別に、何も始まっていないわ」
   月に照らされた海月はいつもよりずっと綺麗に光っていた。だからこそ言葉はいつもより冷酷だった。
   「僕の気持ちは、一つも君に届いていなかったんだね」
   燕は、声を震わせないように努めた。
   「あなたは私になにもくれなかったわ。目に見えるものも。心に残る言葉も。なにもくれなかった」
   そんなはずはない、と燕が言いかけたとき、それを遮るように生ぬるい風が二人の間を吹き抜けた。そしてそれを合図かのように、突然、砂で埋め立てられた地面がこんもりと盛り上がった。
   二人は驚き、無言で夜の砂浜に目を凝らした。すると盛り上がった部分がブルブルと震え出し、上に被さった砂を払い除けるような仕草をしたかと思うと、そこから得体の知れない何かが顔を出した。
   「すみません、こんな時間に。いきなりですが、林檎、いりませんか?青森の」
   二人は意味がわからなかった。何秒間か、暗闇と月と波の音だけが鳴り響いた。
   「なんですか、あなたは。林檎ってなんだ。まず何者かを言いなさい」
   燕が言うと、
   「あ、僕ですか?僕はモグラです。モグラをしながら林檎を売っています」モグラは飄々と答えた。
   「モグラですって?そんな、眼鏡を掛けたモグラなんて見たことがないわ」海月は言った。
   「それはいいじゃないですか。それにあなたも海月でありながら眼鏡をしている。実に珍しいと思いますよ」
   「失礼な。ムカつくモグラね。もういい。私は帰ります」
   「ちょっと待って。海月さん、まだ僕の話は終わっていないんだ」
   「あなたと話すことなんてもうなにもないのよ」
   「おやおや。おやおやおやおやおやおやおやおや」
   「なんだよ、おや、が多すぎる。今、凄く大事な話をしているところなんだ。関係のない君はあっちへ行ってくれ」
   「実はというと、先程からお二人の会話をこっそり地中で聞いておりました。どうやら別れ話がこじれているご様子で」
   「まぁ。いやらしいモグラね。人の話を盗み聞きだなんて」
   するとモグラは少しバツの悪そうな顔をしてみせたが、すぐに気を取り直すと、自分の手から何かを差し出した。
   「なんだ、これは」燕は聞いた。
   「これは、僕が世界中、穴を掘り進めながら売り歩いている林檎です。林檎といってもただの林檎ではありません。これを食べると自分の気持ちにとても素直になれる林檎で、思っていることも正直に伝えることができようになります」
   「それがどうしたというんだ」
   「先程から聞いていると、どうやら海月さん。あなたはまだまだ自分の気持ちに嘘をついているように思うのです。さぁ。これを食べて、ちゃんと正直におなりなさい」
   「余計なお世話ね。私は嘘なんてついていないわ」
   「そうだというなら是非食べて見て下さい。なに、味は決して悪くありません」
   「あなたもしつこいわね。いいわ、そこまで言うなら食べてあげる。そして燕の野郎にちゃんとわからせてあげるんだから」
   そういうと海月はモグラの手にした林檎を受け取った。
   「あ、海月さん。そんなものを食べるとあとでなにがあるか…」
   燕の忠告は虚しく、海月は林檎を一口に飲み込んでしまった。
   もぐらと燕は、神妙に海月の応答を待った。一体海月が本当に変化してしまうのか、考えると燕は一気に緊張した。
   「……」
   俯いたきり、なにも話せなくなってしまった海月を見るに見かねてモグラが言った。
   「燕さん。何か話し掛けて見て下さい」
   燕は恐る恐る声を掛けた。
   「海月さん。海月さん。どうしました。気は確かですか。返事をしてください」
   すると海月はゆらゆらしながら顔をゆっくり表に上げ、言葉を発した。、
   「私、あなたのことが好きです」
   燕は驚いた。身体が硬直するのがわかった。
   「私は、前からあなたのことが好きでした。これからは永遠にあなたの傍にいたいと思います」
   「どういうことだ。おかしくなってしまったんじゃないのか」燕が言うと、た
   「いいえ。そんなことはありません。この林檎は気持ちを開放させる効果があるだけで、精神をおかしくするという作用はございません。今、彼女が話していることは紛れもない真実なのです」モグラは淡々と答えた。
   「モグラさん。今日は来て頂き、ありがとうございました。全てあなたのおかげです。非常に感謝しています」そういうと海月は深々と一礼した。「さぁ。行きましょう。これ以上夜風に吹かれると身体を冷してしまいます」
   「ちょっと待ってくれ。海月さん。本当にそれで良いのか?本当に正直に、素直に話しているだけなのか?」
  燕は状況を飲み込めなかった。
   「もう。あなたは本当にわからずやね。嘘をつく必要がどこにありますか」
   燕はなにも言い返すことができなかった。気持ちが昂って、言葉などなにも出てこなかった。ただ、海月の冷たい目が印象的だった。
   「じゃあもうよいですか?よいならこれで行きますよ。あ。そうだ。燕さん。燕さんにも林檎を一つ差し上げましょう。あとで一人になった時にお食べください。するとあなたにもわかることがきっとありますよ」
   モグラは更に一つの林檎を地中から掴み取り、燕に手渡した。
   「じゃあ、そろそろ参りましょう」
   燕の様子を無視するように、海月の言葉は無邪気で、恬然としていた。
   そしてその一言を最後に、二人は暗い夜の海に消えて行った。
   
   それからというもの、燕は一向に納得がいかず、悶々とした日々を送った。そして、今まで手をつけられなかったモグラの林檎を、ようやく決心がついた燕は、一口、食べてみることにした。これを食べれば、海月の、急な心変わりを少しは理解できるかもしれない。
   自分の心が正直に、素直になるのを待った。

   しかし、なにも変わらなかった。一口、また一口と食べ進めてみても、燕の心にはなんの変化も訪れなかった。
   暫く呆然とした。
   そしてふと、思い至った。


   燕は、涙が溢れ出るのを止められなかった。
   
   
あとがき
天才じゃなかろうかと思った。夢中で書くことに没頭し、書き終えたときには指が微かに震えていた。
それは私がアル中だから。ではない。物語の秀逸さ、文章力の卓逸さ、容姿の端麗さ…。
全てを私は生まれながらにして手中に納めてしまったんやなあ。と思うと。
涙。
近頃ちょっとしたことで涙が止まらない。私は燕。

読んで頂いたミナ様。この物語のギミック。お気づき頂けたでしょうか?(言い訳をすると、自分的にはまだ8割ぐらいの完成度なのです)
まあ本当の本編は8月14日にモーレン様がお披露目していただけますので、ミナ様はそれをとくとご覧頂ければよいかといざ候。
では私は眠いので寝ます。おやすみ。アデュー。

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