2015年11月13日金曜日

順調に不調





今年ももう11月かぁ。早いなぁ。こうして歳を取っていくのだなぁ。気がつけば来年で30かぁ。生者必衰やなぁ。

と、誰にとも言わず朝の行商に出掛ける車中。

午前の陽気はとても気持ちがいいのであるが、11月ともなると空の雰囲気もどことなく寒空な感じがして、こうして気分が盛り上がらないときがある。往々にしてある。

まぁぼっちぼちやってったらよろしいがな。なにも案ずることはない。と自分に言い聞かせた。コンクリートは順調に灰色である。

そうして現場に入る手前で朝食を摂るためにコンビニへ寄ってった。

ご飯は僕のスイートハニーが拵えてくれたおにぎり飯を持参しているので飲み物だけを買ーおおっと。と軽快にスキップしながら店内に入店し、軽やかな手さばきで500ml容器に充填されたミネラルウォーターを購入。
退店するときもアルバイトの50歳そこそこのおっさんに「今日も良い天気ですね。晴天ですね」などと話しかけ、「お、こいつなんか知らんけどノリノリやなあ」と思わせることに成功した。
そうなってくると不思議なもので自分自身も「あ、なんかおれノリノリやな」と錯覚を起こし、だましだましのノリノリで脳味噌はふらふらになるのである。

よっしゃ今日もいっちょやったるかいとおにぎり飯を食べ、ミネラルウォーターをがぶ飲みし、出発しようと車のキーを回した。

するとノリノリのおれが乗っているにも関わらず、車はどういうわけかぴくりとも動かなくなっていた。

え?え?え?え?ってめちゃんこに焦ったおれはあほのように何度も車のキーを回し、返事のない車に余計焦燥感を募らせる一方である。
額から緑色のような汗が噴き出してきた。

少し冷静になろうと一度煙草に火をつけ、腹の底からもっさりした煙を吐き出し、考えを巡らせた。

とりあえず思い当たるところはバッテリーである。過去にも一度バッテリーを上がらせてしまうという珍事件に見舞われた私は急いでバッテリーチェックに取り掛かった。
が、しかしエンジンは掛からねどカーステを聴いたりエアコンを操作したりすることは難なくこなせるのである。

さらに焦った。もはや自分で試せる操作はなにもないのだ。

藁にも縋る思いでおれはインターネットの電子掲示板、「Yahoo!知恵袋」に「車が急に動かなくなった。こういった場合、諸君らはどのような対応をなされるのか、至急、教えてくれたし」などと書いて投稿。すると現在のテクノロジー万歳、ものの3分もしないうちに返事があった。

見てみると、

「やばいっすねえ。それは非常にやばい。そういうときはまず深呼吸して胸の中で般若心経を唱えるんやわ。そんで唱え終わったら外に出て車の右側をハンマーで叩くんです。そうしたら車に精霊が宿るのよ。あとはキーなんてなくても車は自動的に動き出しますわ。全体の操縦は信念で行うことになりますので、上手く乗りこなせるようになるには早くても2年と3ヶ月は掛かる。これはもう絶対にそうなの。それが本当の「自動車」なんですわ。わかりましたか?わかったらさっさとやってみてください。そしてもう二度とこの掲示板を利用しないでください。今までありがとう楽しかった。さようなら」と、えらい口語的な文章で書いてあった。
なるほど、やはり気持ちの問題であったか。これはありがたい、早速言われた通りにやってみたのだがこれが中々上手くいかない。まず般若心経なんて読んだこともないので唱えたくても唱えられない。とにかくインターネットで「般若心経  全文」と書いて検索し、それを閲覧しながら胸中で読経した。やはり目は閉じていたほうがよいのだろうか、などと不安を抱きつつ。

1時間後。
にっちもさっちも行かなくなって呼び寄せたロードサービスに8500円を徴収され、車工場に運ばれた私のリンゴカーは75.000円の費用と引換に無事、復活を果たしたのである。

私の懐からはあばら骨が浮き出ていた。


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