3
音が鳴りやんだ部屋には、いつの間にやら西日がいっぱいに立ち込めていた。
その中で、青年はただぼんやりと立ち尽くした。
今の自分なら、もっと他にできることがあったのかもしれない。
あの頃の少年には、彼女との出会いは、あまりにも早すぎたことなのだ。
そう思うと、いてもたってもいられなくなった青年は再び押し入れの中を探り出した。
手紙はどこに仕舞ったっけ。確かに残しておいたはずだ。
しかし、探しても出てくるものは、少年時代に使っていた勉強道具やさびれた玩具などばかりで、手紙は一向に見当たらなかった。
捨ててはいないはずだが、どこに仕舞ったかどうしても思い出せない。
仮に出てきたとしても、それを読んで今更何かが変わるわけでもないのだが、あの手紙を手にすることで、もう一度彼女に会えるような気がした。
青年はしばらく部屋の中を探し回った。
しかし、手紙はどこにもなかった。
汗だくで部屋をひっくり返して、探し回る自分が途端に馬鹿らしく思った。
もう止めよう。
そう思った矢先、下の部屋で子供の泣く声がした。その声が、また思い出から色彩を取り払っていく。
そして、我に返ったように青年は思った。
こんなことをしている場合ではなかった。今は、今がなにより大切なんだ。
急いで部屋から出ようとしたその瞬間、またラジオから、カチ、という音がした。
青年は思わず、ラジオを手にした。
しかし声はなにも聞こえない。小さく、微かな音で電波の機械音が鳴っているだけである。
虚しくなり、諦めてラジオを机に戻そうとしたその時、取れかかっていた電池カバーの蓋が完全に外れ、電池が剥き出しになっているのに気がついた。
・・・思い出した。
緊張しながら電池を外してみると、そこには、幾重にも折りたためられた小さな紙片が挟まっていた。
時間が止まりそうになるほどの鼓動を感じながら、青年は震える指で、丁寧に紙を広げていった。
一行目の「こんにちは」という言葉は、もはや文章ではない。
彼女の肉声が、はっきりと聞こえてくるようだった。
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