2015年10月30日金曜日

見舞い



祖母が入院した、と母から連絡が来た。


またかと思った。


ウチの祖母は祖母界の中ではまださほど高齢というわけではないが、さすがに孫であるおれなんかよりは幾分齢を重ねているため、これまでにも何度か身体の不調をきたし、入退院を繰り返しているのだ。


今回はいよいよ良くないのかもしらん。そう勝手な不安に駆られたおれはろくに事情も聞かず、とりあえず見舞いに行ってきた。リンゴを携えて。



パイプのベッドに横たわる老人。カードを挿入しないとなにも映らない現金なテレビ。白いカーテン。肌に悪そうな蛍光灯の灯り。看護婦の足音。陰鬱。



恐らく何度来ても慣れることはないだろうと思われる空間にばあちゃんがいた。
他の老人と同じような寝間着を着て、いびきを立てて眠っていた。壁はひび割れて所々コンクリートが剥がれ落ちている。
患者の精神衛生上には決してよくない光景だろうと思った。



しかし、病室の様子を見る限りでは、なにか大仰な設備が施されたりしているわけではなく、カーテン一枚隔てた隣の患者もテレビなどを鑑賞してのほほんとしている。

それを見て一先ず安堵した。この集団部屋で事足りる入院ならそう大したことはなさそうだ。



そして先に見舞いに来ていた母親に様態を伺った。



すると、どうやら古傷の腰痛がいよいよ我慢ならんくなった為、一時的に病室で麻酔を注射し、これまでずっと疎かにしていたリハビリに専念する、というのが入院理由だったらしい。
そんならよかったがな。ええことやがな。


途中、目を覚ましたばあちゃんはあっけらかんとしていていつも通りの気さくなばあちゃんであった。 


まぁよかったやんけ、と適当に労いの言葉を掛け、早々に居心地の悪い病室から立ち去ろうとしたそのとき、祖母が横たわるベッドの横で、差し入れしたリンゴの皮を剥く母の姿が目に残った。


年老いた母を看病する年老いたおれの母。



まるで夕陽を見ているときのような、例え難い虚しさが胸に立ち込めた。










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