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「こんにちは」
彼女の声。
「久し振りだね」
どうしようもなく綺麗で、
「元気にしてましたか?」
僕に幸せをくれた。
「いつも来てくれてありがとう」
字が震えている。
「私も最近やっと」
初めて話したのは、
「ここの病室にも馴れてきました」
下校途中の公園だった。
「昨日、先生から」
風が冷たくて、
「あと2ヶ月だと言われました」
暖かい缶コーヒーを買った。
「命の残り時間がわかるというのは」
何を話していいのかわからず、
「あまりいいものではありませんね」
けれど何かを話さないといけなくて、
「でも、逆に考えてみると」
同じ話を何度もしてしまった。
「少し贅沢な気もします」
どんな話をしたっけ。
「だって」
思い出せない。
「残された時間で」
なにも、
「ゆっくり思い出に浸ることができるから」
思い出したくない。
「いつもあなたを追い返すのは」
「別にあなたのことを嫌いになったわけではありません」
「それよりむしろ、今あなたに会うと」
「きっと嫌われてしまうだろうと思うからです」
「だから」
「もう」
「来ないでください」
「あなたに会うことは」
「もうできません」
「今までありがとう」
「さようなら」
ある日、少年は夕陽を残酷に感じたことがあった。生き物の魂を眠りにつかせるための虚ろな光なのだと思った。いっそ太陽は上らなければいい。そして永遠に夜が明けなければいい。なにも生まれてこなければいい。そう思った。ただ今は──
青年は手垢のついたトランジスタラジオを隅々まで綺麗に磨き上げた。
こんな古いラジオでも現代ならアンティークなどと言って逆に珍しがられるかもしれない。
電池を入れ替えさえすれば今でもしっかりと音を流すことができる。
そう思うと、捨てるのも名残惜しくなった。
終
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