2015年9月4日金曜日

平和の裏返し

りんご屋の近くのコンビニエンスに、ちょいと小腹を満たそうとちぼちぼ歩を進めていた。
ちょうど昼下がりぐらいだっただろうか。
通りには様々な年格好の人々が憮然とした表情で往来しており、
民家の軒先に繋がれた秋田犬も退屈に項垂れていた。
平和な街だな。ピースフルだな。と平和の感傷に浸りながらなんとなく辺りを見回していると、向こうからそれを打ち消すような奇声が聞こえてきた。
声のする方を注視していると1台のちやりんこが近付いてきた。どうやらあれが奇声の主らしい。どうせ気の違った変態だろう、と様子を伺うと、意外にもそれは年端もいかぬ女の子で、一瞬の見立てではまだ中学生ぐらいではなかろうかしら。と思わせるほどの童顔な面持ちであったが、果たしてその奇声の内容が些か不可解であった。闇雲に、そしてしきりに、「はっ。はっ。ぷちゃへっつぁ!」というのである。
私が聞いた感じでは恐らく、この「はっ」の部分はリズム、テンポを取るための「はっ」であり、そのリズムというのは実際にはやや裏拍子のようだったので、仔細に表すならば「はっ」の前にごく僅かな「んっ」が入っていたのかもしれないのであり、従って正式には「んっはっ。んっはっ。」となっていたような気がなんとなくしてきたような気がしなくもないのである。
まぁリズムのことはさておきとして、それよりも最大の難解点はやはり「ぷちゃへっつぁ」のほうにあるのであり、これを解明しないことには今夜は眠れない。そう思い私は当人に問いただそうと舗装路を裸足で爆走したのだけど、なにしろあちらは文明の利器、ちやりんこを運転している為、速度には歴然たる差が生じ、彼女の影を踏むことすらできないまま行方を見失う、という惨憺たる結果に終わってしまったのだ。
ぷちゃへっつぁの謎を突き止めることができなかった怒りと苦しみで嘆かわしくなった私はふと気がついた。わからないことはわかる時がくるまで己で実践すればいい。そうすればきっとじきに何かわかる時がやってくるはずだ。簡単なことさ。
頭を空っぽにし、目は白目にして、顎を45度上に向け、大声で「ぷちゃへっつぁ」を叫んだ。23回目で私は婦人警官に取り押さえられていました。ぷちゃへっつぁ。

結局謎は解けずじまいで、残されたのは心の傷と空腹感ばかりである。かような幾何学語を、なにが悔しいから真昼間の大和田5丁目で叫ぶのであろう。誰か僕に教えてくれないか。
秋の林檎の香りがした。

0 件のコメント:

コメントを投稿