2015年8月7日金曜日

虚言癖



「次にこのような文章をブログに寄稿した折は貴様に処罰を科す。わかったな。アホ。少しはまともな文章を書け。ボケ」

そう怒られたのは他でもない、僕。
そして怒ったのは他でもない、社長。

過去のブログに不適切な表現があるとし、それを慎み給え、と社長は言うのである。

一体どのような処罰が下されるのですか、と問うたところ、ムカイ商店のアメリカ支部へ貴様を飛ばす、というのである。

へっちっち。思わずくしゃみ。アメリカは嫌だ。えらいこっちゃやで。ちゃんとせなあきまへんで。

ということでいよいよまともな文章をブログに投稿することとなった僕は早速取り掛かった。果たして私にまともな文章など書けるのか知らん。そもそもまともな文章とは一体なんぞや。誰ぞ書きけり。

机に向かい、万年筆を持つ手がいつもより緊張する。冷や汗が流れる。小鳥達が囀る。


「HELLO。今朝、仕事に行く途中、とある路地裏からとある子猫ちゃんが飛び出してきたんだ。
いえー、猫ちゃん。君は猫だね。僕は人間さ。さあおいで。怖がる必要などどこにもないのさ。
そういうと、その猫は態度を急変させ、鬼の形相で私の顔に飛びかかり、鋭い爪で2度、引っ掻いては現場から逃走した。傷だらけの私はしばらくその場で立ち尽くしたんだけど、次第に怒りと焦りが交互に押し寄せてきたんです。だから私は韋駄天の如く駆け出して、この猫を追い、引っ捕まえてその体を」

というところまで書いて愕然とした。また、不適切な表現をしてしまいそうになったからである。

一つの事実に直面した。

というのはそもそも、実際にこの、猫、は、私、を引っ掻いてなどいないし、とても可愛く僕に擦り寄ってきた。
よしんば引っ掻いたとしても、現実の、私、はそんなことで腹を立てるような器量ではないのだから、そんな可愛らしい動物を追っかけ回して皮を剥ぐ、なんてことはもってのほかなのであり、どうやら私には、事実を歪曲させて書く、という習性が根付いてしまっているのだ。という事実に直面したのだ。

駄目だ。このままではアメリカである。
それは嫌だ。

英語は不慣れだしなにより一人で海外とか、寂しいじゃないか。

なぜ、事実を歪曲するのだろうかと、己の習性について少しく考えてみた。

6時間ほど考えた。

そしたら時代は朝になってた。

そろそろ行商に行かなあかん時間である。

とりあえず今日は考えるのをよそう。

仕事が何より優先だ、とうわごとのように呟き、おなじみのベーカリーを食しながらシルク地のパジャマを脱ぎ捨て、アルマーニのスーツに程よく引き締まったBODYを包み込み、ベンツのキーをポケットに仕舞いこんで颯爽と家を飛び出した。


というのも嘘である。

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