私の相棒は人間ではなく、車である。
毎朝、SUZUKIの白いエブリイちゃんで行商に出掛ける私にとって、まばゆく白いエブリイちゃんは掛け替えのない存在なのだ。
そして私は友人の伝手で絵描きの人物を紹介頂き、真っ白エブリイちゃんの横腹に太宰治の顔写真を転写してもらった。
なぜそんなことをしたのか。それは私が彼に少しでも近づきたい、でも近づけないもどかしさを、ジレンマを、そうすることによって少しでも紛らわし、胸の平静を保つ為である。
で、実際に出来上がりを見ると、これが実にカッコ良い。
車の横腹に太宰治である。
あの、物憂げな、アンニュイな、恣意的な、ナルシストなおっさんの顔が、描かれているのである。
こいつぁすげえ。と思ってじっと見ていると何やらエブリイちゃんも嬉しそうで、今にも歌いだしそうな雰囲気を醸し出している。
そうかそうか、これでよい。
それから数日後。
試しに色々な文章を書いてみた。
するともちろんのことながら、一向に上達の兆しを見せないでいた。
わかっている。わかっておる。
そんなことをしたからといって、文章が上手くなるはずがないことなど、ハナっからわかっておる。
ただ、毎朝車に乗り込む時、あの顔を見ることで、「ああ、なんか書かなあかんなあ」と思わされる、それだけで充分なのだ。
沢口 裕
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